登山愛好家にとって「山開き」は待ち遠しいと思います。
私は山梨県に住んでいますが、家からは富士山が見えますし、県内どこをドライブしても、富士山が見えない地区はないように思います。
山開きの日には、県内だけではなく、県外からも多くの登山愛好家が訪れ、富士登山を楽しんでいる様子が地元のニュースで流れてきて、季節を感じます。
この記事では、2024年の富士山山開きの概要と安全に登山を楽しむためのポイント、適切な服装についてお話ししようと思います。
まずは山開きの由来や意味を知ることからお話します。
山開きとは
山開きとは、その年に初めて登山や入山が許される行事で、山の神様にお伺いを立て、安全祈願をするための儀式です。
山地の多い日本では、古来より山は神様がいる神聖な場所であると考えられており、神仏を祀る霊山や、山そのものを信仰の対象にした山岳信仰では、徳の高い僧侶や修行者しか入山が許されていませんでした。
江戸時代(1603年~1868年)の中期頃になると、一般の人も神仏にお参りをしたいと思うようになり、夏の一定期間だけ一般の人も入山することが許されるようになりました。
その際、登山の安全を祈願し、登山開始を祝う「山開き」が行われるようになったそうです。
現在は、宗教儀式としての山開きを行っているところもありますが、スポーツやレジャーとしての登山が開始される日のイベントとして山開きが行われています。
山開き前には、基本的に登山をすることはできますが、閉山中は登山道や山小屋、トイレなどの施設が閉鎖されているため、軽い気持ちで山開き前に登山をすることは避けた方が良いと思います。
また、山によっては事故などを防止するために、山の管理機関が入山禁止や入山制限をしていることもあります。
富士山については、一般の登山者が富士山頂まで登れる期間は、7月上旬から9月上旬の「夏山期間」と定められています。
それ以外の期間については、万全な準備をしない登山者の登山は禁止されていますが、法的に規制されているわけではありません。
富士山の山開き
富士山の山開きは、毎年夏に行われる特別なイベントで、登山シーズンの始まりを告げます。
山開きの期間は、例年7月1日から9月10日までとされ、この期間中に富士山の頂上を目指す多くの登山者が集まります。
山開きは、ただの登山シーズンの開始を意味するだけでなく、神聖な儀式も伴います。
登山道の安全を祈願するための神事が行われ、登山者の安全を願う意味合いも持っています。
山開きの歴史は古く、江戸時代から続いています。
当時、富士山は信仰の対象とされ、登山が修行の一環として行われていました。
現在でも、山頂の富士山本宮浅間大社奥宮で行われる開山祭は、多くの信仰者や登山者が参加する重要な行事です。
富士山の山開きは、単なる登山シーズンの始まりではなく、自然と人間の調和を象徴するイベントです。
浅間大社の公式サイトでは、次のように説明がされています。
毎年富士山頂には7・8月で約30万人もの登拝者が訪れ賑わいます。高齢者の方の登拝も多く、誰でも気軽に登れる山として親しまれています。
開山期中は、神職が常駐して祭典、挙式、祈祷、お札・お守り・縁起物・朱印の授与等の奉仕を致しております。
また、富士宮市では、開山を祝い「富士山まつり」として様々な行事が賑やかに行なわれます。
現在、富士山とその周辺の施設(浅間大社本宮・奥宮、湧玉池など)は、世界文化遺産に登録されています。
浅間大社では、神体山の神聖護持の観点から、山小屋・関係機関と協力し、ゴミの持ちかえりの推進、バイオトイレの設置など環境保全に取り組んできました。今後は、世界文化遺産保存の為にも皆様のさらなるご協力をお願いします。
開山祭 7・8・9月の富士山山開きにあたり、安全を祈願する祭りです。祭典終了後、湧水献上、山岳救助隊出発式、富士山開山式典、村山浅間神社等において富士山入山式、かみ灯りコンテスト、ミス富士山コンテスト授与式、手筒花火など、富士山お山開き行事が行われます。
また、富士開山日限定の特別御朱印を授与します。
このように、富士山の開山は特別な行事も用意され、安全祈願が行われます。
山開きの期間中は、山小屋や登山道の整備が行われ、多くのサポートが提供されるため、初心者でも安心して登山を楽しむことができます。
山梨県側ルートと静岡県側ルートでの山開きの違い
山梨県側と静岡県側では山開きの様子が少し違います。
2024年の山開きですが、
- 山梨県側の吉田ルート 毎年7月1日が山開きで、前日の6月30日に前夜祭が行われ、日付が7月1日に変わると同時に登山を開始することができます。
- 静岡県側の富士宮ルート、御殿場ルート、須走ルート 毎年7月10日が山開きで、朝9時から登山を開始することができます
一日も早く登りたい方は、山梨県側からがいいですね。
富士山登山の準備と注意点
富士山登山は、しっかりとした準備と注意が必要です。
近隣の低い山にハイキングに行くようなつもりで軽く考えてはいけません。
まず、登山に適した日程を決めることが重要です。
富士山の山開き期間中でも、天候が急変することがあるため、天気予報を確認し、安全な日を選びましょう。
また、富士山は標高が高く、天候が急に変わることが多いので、予備日を設けることもおすすめします。
登山前には、体力づくりが不可欠です。
富士山登山は長時間にわたる歩行が求められ、標高が高くなるにつれて酸素が薄くなるため、心肺機能の強化が重要です。
事前にハイキングやトレイルランニングなどで体力をつけると良いでしょう。
次に、登山の装備を整えましょう。
登山靴、レインウェア、防寒具、帽子、手袋、日焼け止めなどが必要です。
基本的な服装と装備
まず、基本的な服装としては以下のものが必要です。
・登山靴 足元をしっかり支える防水・防滑機能のあるものを選びましょう。
・帽子と手袋 日差しや寒さ対策に役立ちます。
・着替え 汗をかいたり、濡れたりした場合に備えて、予備のインナーや靴下を用意しましょう。
水分補給も重要ですので、充分な量の水を持参し、適切に摂取するよう心がけましょう。
また、ヘッドランプや地図、コンパスなどの登山用具も忘れずに準備しましょう。
・ヘッドランプ 夜間や早朝の登山では必須です。
・サングラスと日焼け止め 強い紫外線対策が必要です。
季節ごとの服装のポイント
富士山は季節によって気温や天候が大きく変わります。
夏でも山頂付近は非常に寒いため、以下の点に注意してください。
・夏季(7月~8月) 山開きのシーズンですが、山頂では0度近くまで気温が下がることもあります。防寒具をしっかりと用意し、レイヤード(重ね着)を活用して体温調節を行いましょう。
・秋季(9月) 夏よりも気温が低くなり、山頂では雪が降ることもあります。より厚手の防寒具や、防水・防風性の高い装備を準備しましょう。
弾丸登山は、日帰りで山頂を目指すスタイルですが、非常に体力を消耗し、リスクも高いため注意が必要です。
特に初心者や体力に自信のない方にはおすすめできません。
弾丸登山を計画する場合は、十分な準備と自己管理が求められます。
尚、リスクの伴う弾丸登山をやめてもらう目的で、山梨県側吉田ルートでは2024年から次のようになりました。
吉田ルート五合目の登山道入口にゲートを設け、山小屋の宿泊予約がある人等を除き、以下の通行規制を行います。・午後4時~翌日午前3時の時間帯に登下山道を閉鎖いたします。
富士山は標高が高いので、高山病のリスクも考慮する必要があります。
標高2,500メートル以上で起こる高山病は、頭痛や吐き気、めまいなどの症状を引き起こします。
これを防ぐためには、ゆっくりと登ること、適度な休息を取ること、水分をしっかり摂ることが重要です。
安全に富士山を楽しむためのポイント
尚、富士登山オフィシャルサイトでは、富士登山に関する基本的な情報や規制、緊急時の救助などの情報が掲載されています。
計画を立てる段階で、必ず確認することをお勧めします。
天候の確認と計画
富士山の天候は急変することが多く、登山前には必ず最新の天気予報を確認しましょう。
特に風が強い日や雷の予報がある日は、登山を控えることが重要です。
また、無理のない計画を立て、体力や経験に応じたコースを選ぶようにしましょう。
高山病対策と健康管理
高山病は、標高の高い場所で酸素が薄くなることによって引き起こされる症状です。
頭痛や吐き気、めまいなどが発生することがあります。
高山病を予防するためには、以下の点に注意しましょう。
1.ゆっくりと登る 一気に標高を上げると高山病になりやすいため、ゆっくりと登ることが大切です。
2.適度な休憩を取る 休憩をこまめに取り、体を慣らしていくことが重要です。
3.十分な水分を摂る 高山では体が乾燥しやすいため、こまめに水分補給を行いましょう。
食事とエネルギー補給
富士登山では長時間の歩行が求められるため、エネルギー補給も重要です。
カロリーが高く、携帯しやすい食べ物(チョコレート、ナッツ、エネルギーバーなど)を持参し、定期的に摂取するよう心がけましょう。
また、山小屋で食事を摂ることもできるため、事前に営業情報を確認しておくと安心です。
登山の基本ルールを守る
登山道では、基本的なルールを守ることが重要です。
他の登山者と譲り合い、自然環境を大切にすることで、安全かつ気持ち良い登山ができます。
以下の法律で禁止されている行為は絶対にしてはいけません。
国立公園特別保護地区内及び特別名勝指定区域では、登山者に関わる行為として下記が禁止されています。(自然公園法第21条第3項、文化財保護法)
違反した場合、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金等の罰則を科せられる場合があります。・動植物の採取禁止
- 花や実を採ったり、昆虫採集などもできません。
- 登山道を外れて歩くと貴重な生態系に影響を及ぼすため、登山道以外は歩かないようお願いします。
・溶岩や石の持ち出し禁止
- 小石を持ち帰ることはもちろんのこと、移動も禁止です。
・落書きの禁止
- 建造物はもちろんのこと、岩・石への落書きも禁止です。
・テント設営やたき火の禁止
- 富士山にはテントサイトがありません。宿泊は、山小屋でお願いします。
- たき火は禁止されています。
- バーナーやコンロは、火災を起こすおそれがあるため、山小屋周辺や人ごみを避け、周囲に注意して使用するようにしましょう。
・ペット等の放し飼い禁止
- 特別保護地区内では、動物を放すことが禁じられています。
- 山小屋内にペットを入れることやペット連れの登山は、原則としてご遠慮ください。
- 富士山の登山道は火山砂利のため、ペットとともに登山するとペットの足にダメージを与える可能性があります。
富士山では、利用のルールとして「富士山カントリーコード」を定めています。
富士山カントリーコード
- 美しい富士山を後世に引き継ぐ
- 車道外へ車両などを乗り入れない
- 駐車場ではアイドリングをしない
- 動植物を採らない
ゴミは絶対捨てずに、すべて持ち帰る登山道を外れて歩かない溶岩樹型等の特殊地形を壊さないゴミになるものを最初から持っていかない登頂記念の落書きをしないトイレなどの公共施設をきれいに使う
また、その他のマナーについても触れています。
その他のマナー
富士山カントリーコードで示されたルール以外に、下記の登山マナーの遵守をお願いします。
登山道は登りが優先
- 富士宮ルートの全線、御殿場ルートの上部は、登山道と下山道が同一となっています。狭い登山道では原則として登りを優先し、互いに譲り合いにご協力ください。
- 登山道ですれ違う場合には、「こんにちは!」「ありがとう!」と声を掛け合いましょう。そうすることで、同行している人の体調確認もできます。
無理な追い越しはしない
- 混雑するシーズンには、山頂直下で登山道が渋滞する場合があります。先を急いで無理に追い越そうとすると登山道をはずれ、特に夜間は転倒や落石の原因ともなるため大変危険です。無理な追い越しはしないようにしましょう。
誘導ロープに触れない
- 登山道には、登山者が道に迷わないよう誘導ロープを設置しています。誘導ロープが緩んだり、ロープ支柱が倒れたりすると、登山道を外れ、危険箇所への進入や遭難の原因になるため、誘導ロープに触れないでください。
落石を起こさない。落石を起こしたら大声でまわりに知らせる
- 登山道の端を歩くと、小石が落下しやすくなります。できるだけ、登山道の内側(山側)を歩くようにしましょう。
- 自分が落石を起こしてしまった場合には、いち早く、周囲の人に大声で「落石!」を叫んで知らせてください。
- また、落石危険箇所(落石注意の看板のある箇所)では休憩しないようにしましょう。
ケガ人や助けを求めている人がいたら、救助に協力する
- 緊急の場合には、互いに助け合うことが大事です。山小屋への連絡や応急措置など、協力しあうことで大事に至らずに済むこともあります。
ストックの先端にはキャップを
- キャップをはずして使用すると、登山道を痛め、崩落にもつながります。
- また、富士山の登山道は混雑しているため、尖った先端が周囲の人への凶器になる可能性があります。
小屋前の休憩は静かに
- 夜間の小屋の中では、睡眠を取って休んでいる人が大勢います。小屋前での休憩は騒がないようにしましょう。
鳥獣の巣を見ても近づかない
- 鳥獣保護区内では鳥獣の生息、繁殖に影響を与えないよう、巣を見つけても近づかないようにしましょう。
外来植物は持ち込まない
- 他地域に生育する植物が富士山に持ち込まれると、富士山の特異な生態系に影響を及ぼすおそれがあります。
- 登山靴や衣服には他地域の植物の種子が付着している場合があるため、登山前にはブラシ等で除去するなど持ち込まないよう気をつけましょう。
ドローンを飛ばしたり、パラグライダーで飛んだりしない
- 富士山山頂や登山道において、ドローンやパラグライダーの使用は、控えてくださるようお願いいたします。
- 富士山上空では複雑で激しい気流の乱れが生じるため墜落の危険があり、使用者だけでなく、他の登山者の命に関わる重大事故を引き起こす可能性があります。
初心者では気が付かないルールもあると思います。
つい誘導ロープにつかまってしまったり、珍しい小石を拾ったりなど、悪気はなくてもやってしまいそうになりますよね。
でも、いけません。
ルールを守って、楽しく登山をしましょう。
緊急時の対策
万が一の緊急時に備えて、連絡手段を確保しておくことが重要です。
登山シーズン中は携帯電話が通じますが、携帯電話の電波が届かない場所もあるかもしれません。
登山計画を事前に家族や友人に伝えておくと安心です。
また、登山中に体調が悪くなった場合は、無理をせずに下山する決断をすることも大切です。
終わりに
富士山の山開きは、毎年多くの登山者にとって特別なイベントであり、その美しさと雄大さは一生の思い出となります。
しかし、安全に登山を楽しむためには、事前の準備と適切な対策が欠かせません。
富士山の山開きの歴史や意味を理解し、適切な装備と服装を整え、しっかりとした計画を立てることが重要です。
富士山登山は、自然と人間の調和を体験できる貴重な機会です。
自然の厳しさと美しさを実感しながら、登山の楽しさと達成感を味わってください。
そして、登山中には他の登山者と譲り合い、自然環境を守る行動を心がけましょう。
最後に、富士山の山開きがあなたにとって安全で楽しい経験となることを心から願っています。
しっかりと準備をして、富士山の素晴らしい景色と体験を楽しんでください。
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